■ テレビの「消費電力」の不可思議 (2009年12月03日)
大型ハイビジョンテレビを買うに当たり、まずプラズマのPanasonicと液晶のSharp のカタログを集めました。カタログの仕様一覧を比べているうちに、両社の「定格消費電力」大きさの違いに思わず目を疑いました。また、そのすぐ下に「年間消費電力量」なる項目がありますが、私の常識では年間消費電力量は、消費電力×年間視聴時間で簡単に計算できるのに、わざわざこんな項目があることも不思議でした。
そんなとき、Panasonicセンター東京に勤めるOBのN氏からこんな話を聞きました。「プラズマの定格消費電力はプラズマの全画素にフル電力が供給されているとき、すなわち画面が真っ白のときの電力です。実際の消費電力は年間消費電力量で見てください」と聞き、そんなバカな!と一瞬耳を疑いました。
ここから、私の「カタログの定格消費電力」のナゾ解きが始まります。調べていくうちに新しい発見があり、友人からの情報提供も受けて、次のような結論に至りました。
① カタログの「定格消費電力」によるプラズマと液晶の消費電力の比較は、鉄と綿の重さを比較するが如きでほとんど意味を持たないこと
② プラズマと液晶の消費電力の比較は、カタログの「年間消費電力量」でするのが論理的であり、プラズマは液晶に比べて多くても1割程度であること
③ 「実際の消費電力」の値は、カタログの「年間消費電力量」から逆算した値の1.5倍~2倍前後になり、画質設定によっては2倍以上にもなりうること
<カタログの定格消費電力と年間消費電力量>
PanasonicのプラズマテレビとSharp の液晶テレビで、42型の代表機種の定格消費電力と年間消費電力量を、両社のカタログから比較してみました。
Panasonic プラズマTH-P42V1 定格消費電力:477W、年間消費電力量:200kWh/年
Sharp 液晶 LC-42ES50 定格消費電力:226W、年間消費電力量:179kWh/年
定格消費電力の値は「電気用品安全法」(注1参照)による、年間消費電力量の値は「省エネ法」によるということを、両社ともカタログの下の方に小さく載せています。この年間消費電力量は、1日平均4.5時間、1年365日間の視聴で消費する電力量ということです。ただ、省エネ法による年間消費電力量の測定方法は、ザックリには黒と白映像を繰り返して、映像メニュー(注2参照)を「スタンダード」モード、明るさセンサー(注2参照)をオフにして測定しているようです。
いずれにしても、カタログの定格消費電力の値と年間消費電力量の値をみると、奇異なことに気がつきます。両者で定格消費電力が大きく異なるのに、年間消費電力量はさほど違っていません。さらに、年間消費電力量=定格消費電力×年間視聴時間
になっていません。一般的には、誰がみても辻褄が合いません。
上記の年間消費電力量を 4.5×365 で割り算すると、それぞれは次のようになります。カタログの定格消費電力の値よりかなり小さく、プラズマと液晶の差もさほどありません。この年間消費電力量から逆算した消費電力を、ここでは省エネ法の消費電力と呼ぶことにします。
Panasonic TH-P42V1 省エネ法の消費電力:122W
Sharp LC-42ES50 省エネ法の消費電力:109W
ただ、この値が一般的な視聴条件にどれだけ近いかの疑問は残りますが、法で決められた測定法ですから、少なくともプラズマと液晶の実消費電力の相対比較にはなります。
ならば、カタログの定格消費電力の値も、最初からこの「省エネ法の消費電力」にしておけば分かりやすいように思われます。ところが、「電気用品安全法」の関連でそうもいかない事情があることが分かりました。カタログや取扱説明書における定格消費電力の値は、電気用品安全法に則り、機器が最大電力を消費するときの値を表示しなければならないのです。
(注1)電気用品安全法
電気用品安全法は旧電気用品取締法が改題され、2001年4月1日から施行されています。通称PSE法とも呼ばれ、安全マークが〒からPSE に変わっています。電気用品安全法の主旨は、過電流や漏電などによる危険や障害の発生を防止し、一般ユーザーの安全を確保することです。
定格消費電力の値は考えられる最大電力を表示 して、電源の安全ブレーカの電流容量などを決める参考にしようとするものです。プラズマテレビの定格消費電力は、全画素にフル電力を供給(画面が真っ白)しているときの電力で、一般使用時の実消費電力を示すものではありません。
<ワットメータによる実消費電力の測定>
この原稿を書いているとき、テレビの消費電力の実測値の情報が入ってきました。
① Panasonicセンター大阪と同じビルに勤める枚方在住のS氏からの情報です。
Panasonicセンター大阪のテレビコーナーでは、プラズマの「年間消費電力量を半減」と大きい看板を揚げて、これをメインテーマに展示していました。新旧の42型フルハイビジョンを並べて、2~3分程度の短い風景映像を繰り返し流しています。刻々の実消費電力をワットメータで表示していました。新旧それぞれ、およそ次のような値でした。
・新:TH-P42V1 (2009.3発売 年間消費電力量:200kWh) 200~250W
・旧:TH-42PZ70(2007.9発売 年間消費電力量:455kWh) 400~450W
確かに新型でほぼ半減していますが、年間消費電力量から逆算した消費電力よりかなり大きな値になっています。ただし、映像メニューと明るさセンサーの設定は不明です。
② パソコンに詳しい奈良在住のS氏からも、次のような情報をもらいました。
最近 37型液晶テレビPanasonic TH-L37R1を購入しました。このテレビのカタログ値は、定格消費電力:130W、年間消費電力量:116kWh/年となっています。年間消費電力量から逆算した消費電力は、70W
になります。
拙宅でこの3日間、このテレビを見ているときの消費電力を、ワットチェッカー(SANWA製ワットメータ)で測定してみました。実際にテレビを見ているときは、時間帯によらず 100W~120W で、刻々の振れ幅は殆どありません。この値は録画/再生をしているときも、録画/再生していないときも同じです。
ただし、画質設定は工場出荷状態のままで、映像メニューはスタンダード、明るさセンサーはオンになっています。ここで明るさセンサーをオフに設定すると、画面が少し暗くなって70W近くになります。つまり、年がら年中読書などは不可能なほど暗い部屋でテレビを見続けることによって、ようやくカタログ値と同等になります。
③ この記事を作成中に、我が家も46型プラズマテレビPanasonic TH-P46V1を購入し、居間に設置しました。このテレビのカタログ値は、定格消費電力:537W、年間消費電力量:220kWh/年となっています。年間消費電力量から消費電力を逆算すると、134W
になります。
SANWAのワットチェカーも購入して、テレビの実消費電力を測定してみました。まず、工場出荷状態の映像メニューがスタンダード、明るさセンサーがオンのままで測定しました。その他の場合も測定してみましたが、実測値は予想以上に大きく、下記のような値になりました。また、測定した消費電力は下記の値を中心に刻々と大きく変化し、その振れ幅は数10W
にもなります。
映像メニュー :スタンダード 明るさセンサー:オン 250~300W
:スタンダード :オフ 150~200W
:ユーザー :オフ 400~450W
:ダイナミック :オフ 450~500W
プラズマでは映像そのものの明るさにより、実消費電力の値が刻々と変ります。さらに、映像メニューの設定によっても、実消費電力の値はさらに大きく変わりますが、その説明はカタログや取扱説明書では見当りません。
私にとって映像メニューはスタンダード、明るさセンサーはオンの状態が見やすいと感じています。映像メニューをスタンダード、明るさセンサーをオフにすると暗すぎてどうにもなりません。映像メニューのユーザーやダイナミックは私にとっては明るすぎます。この場合は明るさセンサーのオンオフは消費電力に殆ど影響しません。
以上の情報からカタログの定格消費電力も、年間消費電力量から逆算した消費電力(省エネ法の消費電力)も、一般的な実使用時の消費電力とは異なります。映像メニューの設定にもよりますが、一般家庭での実消費電力はカタログの年間消費電力量から逆算した値の1.5倍~2倍 程度の電力であろうと推測します。映像メニューの設定によっては、2倍~3倍の場合もありえます。
量販店などのチラシでは、カタログの年間消費電力量に単価 22円/kWh (各電力会社の平均的な値)を掛けた金額を、「年間電気代」として表示していますが、実際にはこの値の2倍ぐらいは想定していた方がよさそうです。
一般的な使用法による実消費電力を知るのに、定格消費電力の値が参考にならず、年間消費電力量から逆算(4.5×365で割る)した値を、2倍程度にするしか方法はないわけです。おそらくこんな家電機器は、テレビをおいて他にない奇妙な話ですが現実です。
(注2)画質設定
テレビの画質設定は、テレビのリモコンの「メニュー」ボタンからできます。まず明るい順に、「ダイナミック」「リビング」「ユーザー」「スタンダード」・・・などの映像メニューがあります。そして映像メニューごとに、「黒レベル」「色あい」「シャープネス」・・・などの画質が設定でき、その1つに「明るさセンサー」がありオンオフ設定ができます。
画質設定の標準(工場出荷状態)を、Panasonic相談センターに聞きました。Panasonicテレビでは映像メニューはスタンダード、その明るさセンサーはオンになっていす。明るさセンサーは部屋が明るいときは、画面を自動的に明るくし、明るくなれば消費電力も増えます。明るさセンサーの標準(工場出荷状態)は、09年以降の商品では映像メニューがスタンダードのときオンで、他の映像メニューではオフになっています。08年以前の商品は標準で、すべての映像メニューでオフになっています。
<プラズマと液晶の発光法の違い>
プラズマテレビと液晶テレビの最大の違いは、画素の「発光法」の違いです。プラズマテレビは、画素の一つひとつの蛍光体を放電によって直接光らせます。必要な画素だけを光らせればよいので、映像によって常に消費電力は変動します。全面最大発光(真っ白な画面)のときの消費電力(電気用品安全法でいう定格消費電力)の値に比べて、部分発光で済む実使用の消費電力はかなり小さく、それが少ない年間消費電力量に表れます。
一方、液晶テレビでは、液晶自体は発光しません。バックライト(細い蛍光管の並び)を画面の裏側に配置して常に点灯し、液晶パネルで光を遮断して黒を表現しているため、基本的には消費電力は一定です。部分輝度コントロールがついてる機種もありますが、バックライトは常時点灯しておかなければなりません。バックライトを最大にしたときの消費電力と、平均的にそれより少し暗い実使用の場合の値の差は小さく、バックライトの明るさが素直に年間消費電力量に反映されます。
プラズマも液晶も電流は数アンペア以下ですから、安全云々に意味があるとは思えませんが、電気用品安全法の主旨は「安全」第一で貫かれています。プラズマと液晶の発光法がまったく違うにもかかわらず、法律上カタログの定格消費電力の項には、それぞれ最大電力を消費するときの値を記載しなければなりません。この値がプラズマと液晶の実消費電力であると誤認されて、「プラズマは液晶より2倍以上も消費電力が大きい」という巷の一部の声になっています。
テレビに必要な電力の大部分は、ディスプレイ部で消費されます。発光法の異なるプラズマと液晶でカタログの定格消費電力を比較することは、鉄と綿の重さを比較するようなもので、ほとんど意味を持たないことに注目してください。
電器量販店ヤマダ電機のテレビコーナーを改めて覗いてみました。今まで気がつかなかったのですが、展示テレビのすべてに、「年間消費電力量」が表示されています。最近のプラズマの省電力化は著しく、液晶とほぼ肩を並べるくらいになっています。この世界では、「消費電力=年間消費電力量」という公式が成立しているようです。
<年間消費電力量と省エネ法>
多くの家電機器では、カタログやネームプレートの消費電力(W or kW)に使用時間(hour)を掛ければ、消費電力量(kWh)が計算できます。年間消費電力量は、私にとっても耳慣れない用語です。電力が時間とともに変化し、かつ長時間使い続けるような機器は、冷蔵庫とエヤコンとテレビぐらいですから、我が家の機器の年間消費電力量の記載を調べてみました。
一昨年に購入したインバータ制御の冷蔵庫(内容積375L)は、ドア内側に定格消費電力96W、年間消費電力量240kWh/年の表示があります。
今夏に購入した冷暖兼用のインバータ制御エアコンでは、取扱説明書に定格消費電力の記載はありますが、年間消費電力量の記載はありません。北国と南国で外気環境が大きく異なり基準となる条件を決められず、別の観点から省エネの判断基準があるようです。
また、現在使用中の29型ブラウン管式テレビ(1993年商品)では、取扱説明書に定格消費電力155Wとありますが、年間消費電力量の記載はありません。この記載の制度が始まる前の商品です。
さて、年間消費電力量については、省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)で定められています。省エネ法は第2次石油危機を契機に1979年に制定され、その後時代の経過とともに改訂されて来ましたが、主旨は文字通り省エネを推進することです。最近の身近な制度として、家庭で使用される機器の省エネラベリング制度(2000年8月)があります。
その中でエネルギー消費量が特に多いエアコン・テレビ・冷蔵庫の3品目を対象に、5段階の星印で表示する「統一省エネラベル制度」(2006年10月)が規定され、それに則った表示が始まりました。テレビと冷蔵庫については、省エネ基準の「達成率」と「年間消費電力量」を示すことになっています。
下図はSharpの液晶テレビのカタログ表示の一例です。ある特定の機種を除く全機種に、機種ごとに省エネ基準の達成率と年間消費電力量の記載があります。省エネ性能は達成率を分かりやすく星印で5段階に表示しています。

一方、Panasonicのプラズマテレビのカタログを見ると、多くの機種で達成率や年間消費電力量の記載がありません。Panasonicの相談センターに聞きますと、プラズマのフルハイビジョンはこの制度の対象外で、その基準がなく記載できないとのことでした。プラズマでもフルHDでないハイビジョンは対象になっています。
ただ、下図のように全機種で機種ごとに、eco ideasマークと年間消費電力量の削減%の記載(字が小さくて読みづらい)があります。従来に比べて大幅に減っていますが、削減%は年間消費電力量であって定格消費電力とは書いていません。

また、今年の景気対策で始まったエコポイント対象商品には、Sharp もPanasonicも全商品が指定されています。このエコポイント対象商品の適応基準は、「省エネラベル4つ星の基準を満たすもの」となっています。
ただ、統一省エネラベル制度の対象外でも4つ星相当と認められればOKのようで、Panasonicのプラズマフルハイビジョンも4つ星相当と認められ、エコポイント対象商品となっています。
<ネット上のテレビの消費電力論議>
ここまで定格消費電力や年間消費電力量について書いてきましたが、そのほとんどはネット上で調べた内容です。正確な情報が得られたと感謝しています。ただ、Googleで何十件も調べましたが、Q&Aなど個人レベルでのやり取りの大半は、プラズマと液晶の実消費電力の比較をカタログ記載の定格消費電力の値でしています。(これが間違いであることを縷々述べてきました)
プラズマと液晶の比較は、定格消費電力ではなく年間消費電力量でするというQ&Aや、定格消費電力と年間消費電力量の見かけ上の矛盾に気がついた議論もありますが、法の主旨に議論が及んだものはほとんど見当たりませんでした。
一方、公的機関や大手出版社、家電量販店などの消費電力についてのページでは、「消費電力=年間消費電力量」という前提で記事が書かれています。「定格消費電力」という用語は見当たりません。電気用品安全法による定格消費電力の表示の主旨は十分わかっているはずですが、そういう記述はありません。
実消費電力の説明では、カタログ記載の定格消費電力のことにはまったく触れず、いきなり上記の等式を公理のようにして話が進んでいます。特に公的機関のホームページでは年間消費電力量の細かい話が、これでもかこれでもかと延々と出てきます。
PanasonicやSharp のカタログも、自社の新技術や特長を難しい自社用語で難しく説明しています。その方が高性能イメージのPR効果が大きいのかもしれませんが、定格消費電力や年間消費電力量の意味の分かりやすい説明も欲しいと思います。
ここまでテレビの消費電力についてのみ記述してきましたが、実際にテレビを選定するには、テレビの性能についても知る必要があります。超明るい店頭で見る場合と、明るさ約
1/10 の自宅リビングルームでの使用の違いも考慮しなけれななりません。テレビを選ぶ3つのポイントのページが参考になります。
この記事が2011年に向けてテレビ購入を検討している人の参考になれば幸いです。
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