第83回「京都・学ぶ会」安藤敦亮(あんどう・たいすけ)様(フリーライター、音楽愛好家、骨董愛好家)
講演報告『電気録音100周年/1925-2025/音でたどるレコードの歴史』
2025年11月24日(月)に、安藤敦亮様に2度目のご講演していただきました。出席者は30名でした。
今回は、前回(2022.7.25/「やきものの中の散歩」)とは全く別分野で、「電気録音100周年/1925-2025/音でたどるレコードの歴史」と題しての講演でした。自己紹介では、安藤様は1978年生まれの47歳で、故・勝見洋一氏に兄事し、古美術・骨董愛好と音楽鑑賞・オーディオ機器について学ばれ、クラッシック音楽は物心がついた頃から両親より受動的に鑑賞。やがて小学生頃から自分自身でもCDを購買するようになり、それが現在まで続く。所蔵するCDは約7000枚ほど。現在は民藝運動、日本史、古陶磁器、クラシック音楽などについてネット記事を中心に執筆。宇治市在住。
今年2025年は、マイクロフォンによるレコード録音が1925年に実用化されて丁度100年の節目にあたります。新技術の導入によってレコード録音は飛躍的発展と言ってよい大きな転機を迎えることになります。この機会に実際の音源を聞きながらレコードの歴史を学習しようとするのが、今回の講演の狙いでもあります。
まず
- 『録音技術の発見と発明』です。蓄音機は1877年にトーマス・エジソンによって発明(フォノグラフ)されました。しかし実際のところ録音と再生の装置が、私達が認識する「レコード」の形になるまでにはかなりの時間を費やし、しかもそれはエジソン一人の功績ではなく、「エジソンを含めて三人の父がいる」と紹介されました。
(1)トーマス・エジソン・・・録音と再生原理の証明者
(2)アレクサンダー・ガウラハム・ベル・・・録音の保存技術の発明者
(3)エミール・ベルリナー・・・複写に適した現在用いられている「平円盤レコード」の発明者
ベルリナーは初めて聞く名前でした。
≪エジソンの録音機-1877年≫ 音声が空気振動であり、空気中を伝達してそれを耳が拾うということは、人類は昔から経験則(例えば、糸電話)で知っていましたが、エジソンはこの「発生と録音」の原理を基にして1877年に蓄音機を発明しました。しかしまだ技術的に未熟であり、蓄音機の商機を追わず白熱灯の研究に移ってしまい、録音技術の歴史は暫く休眠します。 - 『録音技術の発展と改良』:≪ベル研究所の技術改良とエジソンの再発明≫1876年に電話機を発明したベルが設立したベル研究所が1880年代前半に蓄音機に対していくつか改良を行いました。ここで初めてハードとしての蓄音機と、ソフトとしての、レコードの原型としての「蝋管(ろうかん)」の概念が生まれます。これを「グラフォフォン」と名付けます。
その後ベル研究所は投資家を探し、次々と会社を設立して、後のコロンビア・レコードへと発展して行きます。これに対して、エジソンは特許訴訟を起こしつつ、1888年に改良型フォノグラフを発表し、大々的なキャンペーンを展開して、大センセーションを起こし、著名人(ヴィクトリア女王、ナイチンゲールなど)の演説や詩人の自作朗読、ロンドンでのヘンデルのオラトリオ上演、ブラームスのピアノ演奏など、貴重な音声遺産が数多く記録され、現在まで保存されます。
ここでここまでの流れを整理すると、「録音技術の発明は1877年、レコードの発明は1888年」ということになります。≪円盤型レコードの発明≫ここでドイツ生まれのベルリナーが登場します。その前に蝋管レコードにも色々と欠陥がありました。演奏録音に際し、録音装置を数多く設置しなければならないとか、レコード製作の数が少ないとかまだまだ問題点がありました。ベルリナ―は録音装置の改良を重ね、円盤式レコードが登場します。1890年に初めて市場に頒布された後も改良が重ねられ、1901年に「Victor」ブランドが生まれ、規格が統一され78回転SPレコードが誕生します。エジソンやベルの円筒型・立振動レコードと、ベルリナ―による円盤型・横振動レコードの激しい競争状態が数十年に渡り展開されます。 - 『電気録音の登場』:1890年代に入ると、蓄音機は市場でも音声鑑賞装置として需要が高まり、普及率が広がり、音質も日進月歩的に改善されていきます。従来の「機械録音」「アコースティック録音」では不得手だった分野―音域の広いピアノ、多人数が広い空間で演奏するオーケストラの録音に対して、一体いつ頃にレコードの音質は決定的に改善したのでしょうか。ここで「電気録音」が登場します。音声を電気信号に変換するという試みは、電話機の実用化に伴って開発されていましたが、その後の数々の技術開発が進み、1924年にアメリカのWE社が現在のマイクロフォン録音技術に繋がる決定的な録音の発明を実現しました。この特許技術の導入業者にヴィクターとコロンビアが名乗りを上げました。1925年3月、このプロセスで製作されたレコードが市場に頒布され、音声録音と音声再生の時代に大きな区切りをつけることになりました。この録音技術を「電気録音」と呼びました。これ以降それまで制約の大きかったピアノやオーケストラの録音を含め、堰を切ったように名盤が生まれます。20世紀の3大指揮者と言われるトスカニーニ、ワルター、フルトヴェングラーは電気録音の発明以後に活発な録音活動を行いました。
講演の中で、エジソンの1877年初録音「メリーさんの羊」、ヴィクトリア女王の1888年の蝋管録音、松井須磨子の1914年の「ゴンドラの唄」、大隈重信の1915年の演説などの貴重な音源や、機械と電気録音の音質比較では1913年のベルリンフィルの録音、エルガー指揮の演奏、1965年のTHE BEATLESの「HELP!」などを聞かせて貰うことが出来ました。改めて100年のレコードの歴史を振り返って見て、先人たちの技術研究開発のお蔭で、現在の私たちが手軽にレコードやCDなどを通じて音楽や音声を聴くことのできる有難さを感じた次第です。これを機会にして、会員の皆さんが音楽の世界に改めて関心を寄せて貰えれば、安藤様の講演が大いに生きるのではないかと感じました。大きな拍手を送って御礼にかえさせていただきました。
- 西脇会長から諸連絡と講師の紹介
- 講演が始まりました
- ホワイトボードを使用して
- 講演を聴く皆さん
- 講演を聴く皆さん
- ラジカセで種々の録音技術を紹介







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