【奈良の民話/伝説⑫】蟻通明神(ありどおしみょうじん)

「蟻通明神(ありどおしみょうじん)

奈良県東吉野村に「蟻通明神」と呼ばれている「丹生川上神社(にうかわかみじんじゃ)」があります。平安時代末に和泉国(現在の大阪府)の蟻通大明神がこの地に移られたとのことですが、この「蟻通」にまつわる次のようなお話があります。

昔、ある天皇が若い者だけを大切にし、老人を追放しました。ところが、ある中将だけは、家の中に穴を掘って隠し部屋を作り,ひそかに年老いた親の世話を続けました。
あるとき、唐の皇帝が日本を制服しようと思い、知恵試しの難題をしかけてきました。それは、くねくねと曲がった穴がある「七曲がりの小玉」の穴に糸を通せ、というものでした。困った天皇は、中将にその難題を解かせようとしました。中将は考えあぐね、隠し部屋の老父母に相談しました。「穴の一方に甘い蜜をつけ、他方から腰に糸を結びつけた蟻を入れる。蟻は甘い蜜の香りに誘われて玉の中を通り抜ける」という知恵をさずけてもらい、見事に解決することができました。唐の皇帝はほかにも難題を出しましたが、どれも老人の知恵で解決することができました。
それ以後,唐は難題をしかけてこなくなりました。天皇は年寄りたちを大事にあつかい、都にはまた老人が戻り、中将は死後、蟻通明神として祀られました。

※この「蟻通明神」は、奈良県を中心として伝わる昔話の一つで、「姥捨山(うばすてやま)」(難題型)に含まれるモチーフになっています。紀 貫之の和歌や『枕草子』や世阿弥の能『蟻通』にも登場するそうです。
※「丹生川上神社」には、水に関する一切を司る日本最古の水神・罔象女神(みづはのめのかみ)が祀られているそうです。天皇やその使いにより、「旱魃時は降雨、長雨時は止雨」の祈願が度々行われた、とても由緒のある神社とのことです。

(2021.4.22 小西 宏明)

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