第10回 夢中人紹介 久米 信行さん

”木工芸に魅せられて”

枚方市伊加賀西町在住(取材時)
2008年6月17日 取材

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1.取材訪問

  きめ細かく繊細さをもつ、日本伝統文化の木工芸制作に愛着と誇りをもって取り組んでおられる”匠”久米 信行 さん を伊加賀西町の自宅にお訪ねしました。今回の取材は、本夢中人シリーズ第11回 「ひとコマ漫画」夢中人でもある 水島 渡さんの強い推薦もあり、水島さんご同行のもと4名で取材をさせて頂きました。洋風な外観のお家で、一見して日本伝統工芸をされるとは想像しえなかったが、一歩室内にお邪魔すると、ご本人の力作である、盆・テーブル・椅子・額縁、奥様とお子様の力作である水彩画・写真・人形などが、整然と飾られており、お子様も含めた芸術一家との第一印象を受けました。

2. 動機と経歴

 久米信行さんは1941年(昭和16年)大阪出身、1960年(昭和35年)松下電器入社、当時の無線研究所に配属され、当時の精密キャパシタ事業部、松江松下電器等で勤務された後、2000年に退職されました。現役時代の1985年(昭和60年)44歳の時に、守口のデパートのカルチャー教室(木彫)を奥様とご一緒に見学されたのがきっかけで、この道に入ることになられました。  しかし当初は入学意思は全くなかったのが、ご本人の知らぬ間に奥様が入学金・授業料を納められ、教材や工具の申込みまで済まされていたことを後日知り、払った費用が無駄になるので仕方なく入学されました。

 ここで師と仰ぐ人間国宝”村山 明”先生とお会いすることになりました。教室での村山先生の指導の下では、最初3ヶ月間ぐらいは砥石で鑿(のみ)を研ぐ作業に終始、日々の単純作業が嫌でたまらず、今日も同じ作業なら止めようと思って出かけた日に、木の削り作業を許され、何とか続けられたのが本音だそうです。  その削り作業を続けるうちに、その難しさ、木の変化と複雑さに、次第に木独特のぬくもりを感じる様になり、更には日本古来の伝統技法のおもしろさに親しみと喜びが感じられ、その魅力に魅せられて、この道に深く入って行くことになったそうです。

3. 創作活動

 久米さんは前出の人間国宝”村山 明”先生の一門として創作活動を続けられ、その創作活動の場は、自宅裏の離れにある作業場”木工芸・工房「信」”であり、木工に関する日本古来の技法、鑿(のみ)、鉋(かんな)、彫刻刀(ちょうこくとう)などを使い、日々創作に取り組んでおられます。木工芸の技法としては、以下のものがあります。

  1. 指物(さしもの)板材を組み合わせて作る方法です。作品例は、椅子・机・飾り棚・重箱などです。
  2. 刳物(くりもの)一木から抉(えぐ)り出して表現するもので他の技法では表現し得ない自由な曲線、量感が得られるのが特徴です。作品例は、お盆・お皿・文箱などです。
  3. 挽物(ひきもの)轆轤(ろくろ)を使い挽かれて形となる、形状は丸物が主体となります。

 それらの工法を使い製作される木材にもこだわりがある様で、銘木とされる木ができるまでにはかなりの年月を要します。

  1. 伐採後池で水に漬ける 4~5年
  2. 屋外(天日)で自然放置 4~5年
  3. 室内で自然放置 3~4年

 合計すると11~14年経過した物となります。目的に適合したケヤキ、トチ、カエデなどの素材は、銘木店で購入するのが普通であり、木材の大きさにもよるが、通常価格は約5~10万円の物を使用する、高級材料と言われる物(特に木目の美しい材料)は、限がないほど高価だそうです。

 お盆の形に削っていくのでも、削り過ぎにならぬようミクロン単位の感覚を、手先で作り出す必要性があり、神経の細やかさが要求されます。  そして制作の良し悪しは、木の木目が自分の考えている位置に配置できたものが出来の良い作品になるとのことです。 また、久米さんが実行されている塗は、透明漆を使った拭き漆工法です。最初は木で作った木べら塗りから始まり、最終は馬の尻尾(しっぽ)で作った刷毛で漆塗りを重ねて(10数回)完成するそうです。

 このようにして制作する年間創作個数は、展覧会出品用の大盆等の大物2~4点、額縁等の小物5~6点で、これまでの累計点数は、大物50点、小物100点程度になるそうです。  その中で、自信作となるのは、1994年の第23回展に初入選して以来、今年の第37回展までの15年間連続入選している日本伝統工芸近畿展に出展した作品と、2005年に初入選した第10回日本伝統工芸木竹展全国大会に入選した作品だそうです。

4.今後の目標

  1. 日本伝統工芸近畿展及び、日本伝統工芸展(全国大会)で、入選の一つ上の賞である入賞を取ること。
  2. 全国的な規模の百貨店ギャラリーで個展を開くこと。
  3. お子様の作品と合同作品展を出すこと。

5.終わりに

 細かい神経が必要な木工芸を続けるために、気分転換と健康維持の必要性を感じ、早朝6時から約1時間淀川でウオーキングや家庭菜園で野菜作りに励んでおられる。また、ここまで木工芸に没頭できたのは、奥様の強い支えと、恩師である人間国宝”村山 明”先生のご指導によるものである。そして二人の子供さんから、工芸品の出来栄えに対する高い評価があったからであると話されていました。  これからも素晴らしい作品を作られ、活躍されることをお祈りいたします。

<取材:鬼頭、水島、梅原、田宮、大熊 HP作成:大熊 WP編集:吉川>

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